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LP投資を通じて見つけたもの ──地方放送局とVCに共通する価値観とは?
HAYASHI RyoheiFBS福岡放送は福岡・佐賀を放送エリアとする地方放送局です。県民応援バラエティ「ナンデモ特命係 発見らくちゃく!」を筆頭に多数の人気番組を放送しており、地域住民に愛されてきました。2017年、そんな放送事業を行う株式会社福岡放送からドーガン・ベータのベンチャーファンドに出資いただいています。
ご一緒していく中で様々な関わりをさせていただき、今回、「ナンデモ特命係 発見らくちゃく!」の10周年特別企画にて、事業化支援のスピンオフ番組を制作するという機会も生まれました。「社会課題を解決できる」ビジネスアイディアを持っている人を広く募集し、資金調達に向かう様子を追いかける企画です。
https://www.fbs.co.jp/tokumei10th/
今回は、FBS編成部副部長で「発見らくちゃく!」の〝生みの親〟でもある藤谷拓稔さん、ドーガン・ベータ代表取締役パートナーの林龍平に、地方放送局とVCとの関わりやその意義について語っていただきました。
FBS福岡放送編成部副部長
2004年入社。スポーツ部、制作部などでスポーツ番組、朝番組、夕方ワイドのディレクターを歴任。11年7月「ナンデモ特命係 発見らくちゃく!」を立ち上げ、出演者のパラシュート部隊・斉藤優とともに名物演出・プロデューサーとして視聴者に親しまれる。21年7月から現職。
ドーガン・ベータ 代表取締役パートナー
住友銀行・シティバンクを経て2005年よりドーガンで地域特化型ベンチャーキャピタルの立ち上げに携わり、累計5本・総額50億円超のファンドを運営。2017年にドーガンよりVC部門を分社化したドーガン・ベータ設立し代表就任。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会 理事 地方創生部会長を務める。
投資検討会議に積極的に参加、自社事業にもフィードバック
──まずはFBS福岡放送の藤谷さん、簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか。
藤谷:今年で新卒入社18年目になりまして、編成部の副部長をしています。社歴の半分以上を、「発見らくちゃく」担当として過ごしてきました。立ち上げ時は29歳。社内の企画募集に手を挙げ、それが通ったことで番組が始まりました。今回、スピンオフ企画のタイミングでインタビューを受けることになったのですが、自分はベンチャー投資に関しては全くの無知なので、今日はとても緊張しています(笑)。
──FBSさんは、ドーガン・ベータの2つのファンドに出資されていますよね。経緯を教えていただけますか?
林:2017年と2020年のファンドに連続でご出資をいただきました。弊社のファンドでは、主に地元の事業会社からお金を預かり、起業家、ベンチャー企業に投資をする。その企業が育つことで、5~10年という長いスパンでリターンが生まれます。したがって、2020年に投資いただいた段階では、2017年のファンドの利益が出るかどうかまだ分からない状況だったのですが、前回の倍額の出資を決めていただきました。役員会での上層部からのコメントを間接的にうかがったことがあるのですが、「収益も大事だが、どんな起業家が九州にいて、そういう人たちが何をしようとしているのか。テレビ局との関わりが生まれることによって何ができるのかというのをしっかりドーガン・ベータから吸収し、事業に活かしていくように」と。まさに弊社に対する期待というか、僕らとしては、経済的なリターンだけでなく、出資者の皆さんのいわゆるコーポレート・ベンチャリングにしっかり貢献していこうと、改めて思いました。
──ドーガン・ベータの投資検討会議「β会」にも出席されていると聞きました。
藤谷:はい、経営推進室企画部の者が検討会議に出席しています。当社内でもさまざまな新規事業の構想がありますが、新規事業には「目利き」が不可欠です。その「目利き」に対する知見をどう獲得するか、その意味での(ドーガン・ベータへの)出資であり、β会への参加なんです。
林:β会は月2回ぐらいのペースで開催しています。弊社が投資を決定する際、社内でこれはやろうと決めた投資案件について「投資委員会」を開催し、投資家の皆さんに「この投資をします」という説明をします。β会はもう一つ前の段階にあって、投資委員会に諮るかどうかを議論する会議体。FBSさんには、ほぼ皆勤でご出席いただいていますよね。いろんな案件を比較して「この投資は、こういう理由から難しいかもしれない」「こっちのほうがいいんじゃないか」といった具合に、弊社が投資基準に照らして投資方針を議論する部分をオブザーバーとして見ていただいています。
藤谷:社内上層部からは、ドーガン・ベータさんとパイプを太くし、何かを吸収して事業に活かしていけるようにとは言われていました。担当者がいつも言っているのは、会社の中にそうしたベンチャーのマインドを広めていくことを目指している、ということ。現在はそれが会社の中に広まりつつあり「さあ、これからどうしていこうか」という段階に入りましたね。
番組企画会議と投資検討は似ている
──β会を含めたドーガン・ベータとの関わりの中で、分かってきたことはありますか?
林:いつも参加してもらっているFBS経営推進室の山田さんがおっしゃっていたのは、番組の企画会議とベンチャー投資検討ってとても似ている、ということです。投資の決定に至るフローと、企画審査が通るまでのフローの2つに共通してる部分は実はとても多くて。今回、「β会に参加していると、企画会議を見ているような感覚になり、番組企画チームと関わり合うことで、化学反応が起こるかもしれない」ということで、藤谷さんを番組10周年企画を通して紹介していただきました。
藤谷:テレビ局の番組企画審査を例に挙げると、若手らが上げる企画書を審査する人間にとって大事なことは、パーフェクトを求めないことだと思うんです。例えば、「全体の完成度としては30点だけど、企画書の3行目、ここはすごく良い」といった点に気付けるか否か。その上で、どう修正していけば、この3行目を拡大し、より良いものにできるか。僕自身、○か×かの判断基準で物事を見ないようにしようと常に言い聞かせています。スタートアップも同じではないでしょうか。
林:僕らも投資の時に同様のものを大切にしています。エッジが効いているというか「この部分は凄いな」という部分ですね。たしかに、他の部分はまだまだ足りない、100点じゃない。けれども、そこは僕らがサポートしたり、彼ら自身が努力したりすることで解消できる。すごく尖っている部分は、なかなか真似されないという利点もあると思います。β会はまさにそうですけど、同じ案件を何回も揉むんです。今回は投資決定には至らなかったけど、この尖っている部分は良いから、どうにかできないかということで2回、3回と挙げて、それが半年、1年かかって投資に結びつくこともある。
異業種間でも通底する価値観
藤谷:今回のインタビューに当たって山田と改めて話す中で、「課題解決」という点において、放送局の番組づくりとベンチャーキャピタルの事業は意外と本質は共通しているというという話題になって。「発見らくちゃく!」は視聴者の超個人的な調査依頼を解決するバラエティで、依頼者が解決したい課題に向かってMCやプロデューサーが協力して解決していく様子を番組にしています。僕の中では、必要とされる番組をつくりたいという思いがありました。観ていて面白い番組であることは当然ですが、無くなったときに困る番組。やるからには、長く続けたい。でも、必要とされなくなったら終わる。例えば、はさみが太古の昔から形を変えずに存在しているのは、あの形が必要とされているからですよね。そんな風に、とにかく観てしまったらそれが生活の中に必要とされるようなものをつくりたいなと。そこを心がけて番組をつくってきました。
林:ベンチャーキャピタルは、どちらかと言えばムーンショットというか「世界を狙っています」というような企業に投資するんです。投資成長率が100倍とか1000倍になる分、成功率は低いけれども一定確率で大きくなる可能性があるところに投資していく。確かに、そのスコープは「発見らくちゃく!」とは違うかもしれませんが、解決したい課題にコミットして、必要不可欠なものを作っていく、その価値観は似ていますよね。
藤谷:ドーガン・ベータさんが、投資の可否や利益の有無とは別のところで、どういう世界をつくりたいか、どういう問題が解決できるかをとても大事にされていると伺ったとき、まさしく番組づくりと一緒だなと思いました。企画にも「この放送によって、どういうメッセージを伝えたいか」という大きいコンセプトがある。企画のゲーム性とか中身そのものは枝葉なんです。(企画では)根幹であるコンセプトを成し遂げるための最も良い枝葉を選んでいるだけで。
「発見らくちゃく!」を10年やっていますが、やっぱり、多くの人を応援する中で気付いたのは、人々は持続的な支援を求めているということ。人の気持ちを変えるとか、前向きにさせるというまでがレギュラーの中では精いっぱいだったんです。お金がないと解決できないものってたくさんある。
林:そうした中で「福岡にこんなにも多様な起業家がいるんだったら、テレビ局としてサポートするような企画ができるんじゃないか」とご提案いただいた。僕らは気付けなかったんですけども、そこに着目いただけて。β会が今回の企画につながったのかなと思っています。
──β会の参加がきっかけの1つとなって、今回の企画が生まれたというのは面白いですね。
林:今回の「発見らくちゃく!」10周年企画では、地域目線で、それぞれ視聴者の方が抱えている「こうなったらいいのに」という課題を解決しにいく。そこについては、僕らが普段接しているスタートアップと本質的には全く同じだと思うんです。事業に必要なヒト・モノ・カネをどう調達し、成功するためにはどこに強みがあるか。弊社としては、事業の大きさや狙っている目線の高さにかかわらず、課題に真摯に向き合う皆さんをサポートできればいいなと思っています。
──今回の企画で、放送局としてビジネス側まで支援する意義をどう考えているのでしょうか?
藤谷:もともと番組を立ち上げる背景には「必要とされる番組を立ち上げたい」「必要とされたい」という思いがありました。今回もそこに尽きる。福岡がよくなるアイデアがあって、そのアイデアをここで暮らしている人たちに届ける方法を一緒に考える。良いアイデアを埋もれさせず、放送局として貢献できれば、それはここに暮らしている人たちにとって「テレビ局は必要だ」と言ってもらえることに繋がると思いますね。
林:今回の企画の申し込みのフォームは「事業計画はいりません」と表記していて。むしろ何を実現したいかを一言、ちゃんと最初に書いてくださいというのが主眼になっています。「あとは一緒に考えよう」で良いんじゃないかなと。
「地域の課題と向き合うために」テレビ局の新たなチャレンジ
──今回の企画が成功すれば、色んな可能性が見えてくるなと感じました。
林:「自分にもできるんだ」という気持ちになってもらえることが、今回の企画の重要なポイントですよね。福岡だと大名小学校跡地のスタートアップ拠点、「Fukuoka Growth Next」に多くの人が集まっていたり、僕らもこの10年でチャレンジする人が増えてきたなと実感しています。福岡市も一生懸命、起業を応援している。福岡に住む人であれば、何となく起業のイメージを持っていて、「テレビ局でそういう企画があるなら、ちょっとやってみようかな」という気持ちになりやすい風土、カルチャーがある気がします。うまくいくんじゃないかなと勝手に思っていますね(笑)。
藤谷:そういうマインドを持った人が多いですもんね。
林:ここ数年で増えているのを凄く感じますね。テレビの企画から、企業が生まれ、世界を変えていく。こうしたことは福岡でも10年前だったら難しかった気がして。また、これは勝手なイメージかもしれないんですが、テレビ局ってピラミッド型の堅い組織だと思っていました。そういう方々が「やってみたらいいじゃない」と言ってくださるのが、個人的にはとてもうれしいです。
──今回の企画に期待することはなんですか?
藤谷:普段、僕らは番組をつくるとか、番組を成立させるということがどうしても潜在意識にあって仕事をしている部分もあります。でも、今回は番組が成立する、しないというのは正直、どうでも良いかなと思っていて。地域にはこういう問題・課題があって、それに対してどう抗って取り組んで、よりよい方向にしようとしている人たちがいるのか、今回の機会があって初めて知りました。番組にはしづらいけれど、でもそれってすごく必要なものだよねとか、地域の人たちが何を必要としているのかという、日ごろは僕らに届かない声を拾い、たくさんの気付きをいただける機会になるだろうと期待しています。
林:もちろん、弊社としても普段起業家の皆さんと一緒にチャレンジするときと同じテンションでにヒト・モノ・カネあらゆる視点でできる限りの支援をしていきますし、こういった形でテレビで紹介されることで共感を集め、それが事業の推進力になるようなセレンディピティも十分にあると思っています。
何か新しいものって、異質なものの関わりから生まれてくるものがほとんどですよね。僕らが投資しているベンチャーの世界もそうですけど、新たな組み合わせ、交わりから生まれるものは、まだまだたくさんあるなと思っています。そういう意味で、今回のチャレンジは僕らとしても新鮮です。一見すると「投資」とは無縁の世界のようにも思える番組制作に取り組まれている藤谷さんと、仕事の本質的な部分で共感が芽生え、こんな企画を生み出すことができました。これからどういったものができるのか、すごく楽しみにしています。
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