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様々な地域で頑張られている方の価値観を大切にしたい ── 政府系金融機関から地方VCへの転職とこれからについて

2024年3月、ベータ・ベンチャーキャピタルと社名を変更し新しい一歩を踏み出そうとするタイミングで、初めて公募という形で新メンバーを募集しました。

そんな中、応募をいただき入社してもらったのが今回お話を伺う田村直哉さんです。

入社から3ヶ月経ったタイミングでインタビューを実施し、地域とスタートアップに関する思いや、転職にまつわるエピソード、今後のチャレンジについてなどを語ってもらいました。

田村 直哉
ポートフォリオマネージャー
田村 直哉
TAMURA Naoya
2002年国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)へ入庫。福岡支店を含む全国各地の地方拠点において小規模・中小企業・スタートアップへの融資実務を経験した後、本部間接部門にて管理職としてスタートアップ支援施策の企画を担当。 2024年4月、… 続きを読む

転勤を通じてあらゆる地域を経験

── まずは簡単な自己紹介からお願いします

はじめまして。2024年4月よりベータ・ベンチャーキャピタル(以下、ベータ)へ参画した田村です。今後、「ポートフォリオマネージャー」として、ファンドの管理業務をはじめ、弊社キャピタリスト、投資先と起業家の皆さま、LPの皆さまそしてベータに関わるあらゆるスタートアップ支援機関の皆さまを繋ぐ存在としても機能し、ベータと福岡・九州のスタートアップ・エコシステムの発展に寄与してまいりますので、どうぞよろしくお願いします!

── ベータは九州に根ざしたベンチャーキャピタルで、メンバーも九州出身者が多いですが、田村さんは九州出身ではないと聞きました

はい、私は三重県亀山市という人口約5万人の小さな街の出身です。同市は古くは東海道五十三次の宿場町として栄えた街で、近時は他の地方都市と同様に高齢化が進む中ではありますが、市内に大規模な工業団地があることから労働人口世帯の流入が一定数あり、人口規模や年少人口比率はおおむね横ばいで推移しています。

これだけ聞くと「なぜ三重県出身者がベータへ?」と思われるかもしれませんが… 。私の父は鹿児島県鹿屋市出身、妻は福岡県八女郡出身、そして私自身も20代後半の4年間を福岡で過ごしており、福岡はもともと第2の故郷的な存在ではありました。

── なるほど、福岡にも赴任されていたのですね!社会人生活の中でも地域文脈での活動が多かったのですか?

大学を卒業した後、2002年に新卒職員として日本政策金融公庫(以下、日本公庫)へ入庫しました。以降、約13年間は概ね一貫して地域の創業企業、小規模企業及び中小企業への融資業務に携わり、その間、転勤を通じて郷里の三重県をはじめ、福岡県、栃木県、香川県といった全国各地の地方拠点で勤務しました。

転勤を通じて各地の様々な人と出会う中で「全国各地の転勤って大変でしょう?」と聞かれることが多かったのですが、訪れる土地にはいつも新たな出会いや発見があり、それぞれの土地の風土を存分に楽しんでいました。例えば、春期の転勤で関東地方の栃木県へ初めて訪れた際、翌日の日の出が驚くほど早くて「え、まだ午前4時台なのに日が昇り始めている!!」と驚き、香川県では1週間のうち3、4日は昼食にうどんを食べる生活も経験しました。

福岡県出身の妻は、新しいものが好きな福岡県民の気質を地で行くのか、転勤に対して寛容で、「次はどこに行くの?」と前のめりだったことが非常にありがたく、転勤先を気にすることなく伸び伸びと働かせてもらいました。

偶然の積み重ねで転職を決断

── 日本公庫は広い意味での創業支援のイメージが強いですが、スタートアップとの関わりはいつからされていたのでしょうか?

2016年に、高松市に拠点を置く四国創業支援センターという部署へ配属されました。同部署には四国に拠点を置くスタートアップのソーシングから融資審査までを担当するミッションがあり、そこが本格的にスタートアップと関わり始めたタイミングになるでしょうか。

その部署では研究開発型の大学発スタートアップをはじめ、水産スタートアップや地域で特徴的なメディアを運営する若年起業家など、ユニークな経歴をもつ多くの起業家と出会いました。加えて、こうした起業家を支援するベンチャーキャピタル、エンジェル投資家、アクセラレーターの方など、地域を拠点に活動する多くの支援者の方とも出会う機会があったのです。

こうした方々の思いを知ることや地域を盛り上げたいという熱意に触れる中で、スタートアップに関わる仕事のやりがいをますます感じていきました。次第に「自らの理想を実現するために地域でスタートアップを起業した人たちや、地域に根ざして支援を行う人達は、地に足が着いていてすごく格好いい」と尊敬の念を抱くと共に、いつしか自らもそのような存在になりたい、と憧れにも近い思いを抱くようになったんです。

── 1つの大きなターニングポイントになったんですね

はい。そんな時期に、当時一緒に働いていた上司の薦めもありスタートアップ支援施策を企画する東京の間接部門への公募制度に応募し、異動することになりました。以降、退職するまで一貫して日本公庫のスタートアップ支援施策の企画、VCをはじめとするスタートアップ支援機関とのネットワーク形成活動並びに高校生を対象としたアントレプレナーシップイベントの企画・運営等に従事しました。

2023年、創業支援部スタートアップ支援グループリーダーへ着任後は、仕事柄、全国各地のスタートアップ・エコシステムの情報収集も積極的に行っていました。

── その時に初めてベータを訪問したと

その通りです。その年の8月に福岡エリアのスタートアップ支援機関を訪問する機会を得まして。当初ベータへ訪問する予定は入れていなかったのですが、福岡の現地スタッフの方から「福岡を訪れるならベータへ行っておくべき」との助言があり、急遽、訪問することになったんです。

当日はベータの渡辺さんから自社のミッションや、福岡・九州におけるファンドエコシステムの現状について丁寧に説明を受けました。加えて、まもなく2週目に入るであろう福岡のスタートアップ・エコシステムにおける課題は首都圏と比較して「人材不足」であることなども知り、「福岡は妻の郷里だし、将来的に何らかの形で福岡のスタートアップ・エコシステムの発展に貢献できるといいかも…」と漠然とした思いを抱き、その場を後にしました。

── 最初は偶然の訪問だったんですね

そうなんです。これもまた偶然なんですが、数カ月後、SNSのタイムラインにベータ林さんが寄稿した「新メンバー募集します!!」の記事が目に飛び込んできました。

記事を読み進めると、林さんをはじめベータに所属するキャピタリスト4名が投資活動だけでなく様々な業務をこなす中、各人のリソースが本来集中すべき所に集中できていないことが課題である、との趣旨が。記事が発信された当時、独立して間もなく7年となるベータの組織が今後持続的に発展するためにはフロントだけではなく、ミドル・バック領域も強化しなければならない、そのようなメッセージであるとも受け取りました。

私はというと、日本公庫において管理職となりフロント業務からは一歩引き、特に昨年は専らチーム作りに腐心していたタイミングでした。社内外の様々な調整を行いながら共に働くメンバーが自律的に動くことができるよう支援しつつ、組織の変化や人の異動が生じたとしても、日本公庫内におけるスタートアップ支援施策を継続できるだけの持続性ある組織をつくるには、といった部分です。もしかしたらこの経験がベータのために役立つかもしれない、私の中にそんな直感が働きました。

これまで積み上げてきた日本公庫でのキャリア、自らの起業家やスタートアップに対する想い、子供の養育や福岡県内に住む妻方の老親の支援等々家族のこと、様々なことが頭の中をめぐりましたが、記事を読んでから1週間ほど思案した結果、この直感とタイミングは限られた人生の中でそうは訪れることがない貴重な機会と捉え、最後は行動しないまま後悔したくない一心でベータへノックすることを決断しました。

「この歳になって転職をするなんて想定していなかった」

── 偶然の出会いとおっしゃられてますが、 本当に想定外の転職になったんですね

そうなんです。世間では40代の転職は難しいと言われますし、ベータと出会うまで転職に向けて行動することは考えていませんでした。本当に予期せぬ事態というか、偶然なんですよね。

応募を果たした後は渡辺さんを皮切りに、段階的にベータの一人一人とオンラインで話をしました。その中で、ベータの目指す方向性、スタートアップや起業家に対する価値観、働き方などについて話し合い、ベータで働くイメージを徐々に膨らませながら、最終段階では東京都内で林さんと複数回お会いし、オファーをいただきました。

ベータのメンバーは皆オープンな雰囲気を持っていて、毎回とても話しやすかったことを覚えています。林さんと初めて会った時は流石に緊張しましたが(笑)

── 新天地での活動に不安もあったと思うのですが

当然、職種や動き方を変える決断になるので、応募した後も悩みました。でも大きく捉えると私にとってはこれまでの人生の延長線上のような感覚もあったんです。転職を決断した後はお世話になった方々へご挨拶させていただき、多くの励ましの言葉と様々な反応をいただきましたが、ある方から「転職するといっても君がやることは変わらないし、そのまま頑張ればいい」と言ってもらえたことは本当に嬉しかったです。

── 延長線上という表現は面白いですね。ご自身とベータの目指す方向性が似ていたのでしょうか

そうですね。ベータの「金融の地産地消」の哲学や「あえて福岡の地でVCを」という、どこか開拓者精神や反骨心に近い感覚に対し強いシンパシーを感じました。

先にお話しした通り、私自身は地方の出身者であり様々な地域で生活してきましたが、常に自らの気持ちの奥底には様々な地域で頑張られている方々の価値観を大切にしたい思いがあるというか、地域を拠点に社会課題の解決や自己実現を果たそうとする方々を応援したいと思っていましたので、このあたりの感覚がベータの価値観と重なるところがあるのかもしれません。

── 転職して3ヶ月ほど経ちましたが、想像してたものと違ったり、驚いた点などありましたか?

ジョインする前までは「VCは起業家と共に時代を作る存在であり、華やかな世界に身を置いているのだろう。服装もTシャツジャケットでラフだし…」と思っていましたが、このイメージは入社後すぐに消え去りましたね。

キャピタリストは投資先企業の起業家と日々対話していて、相談事に耳を傾けながらも言うべきことは言うなど、起業家に対して敬意を持ちながら、時には寄り添い、時には真正面から向き合っています。

また、融資においてはその性質上融資金の償還確実性の検証が非常に重要であるため、その確実性を担保するだけの兆しがあるのか否かなど保守的な論点がフォーカスされますが、投資においては起業家とチーム、商品サービス、市場などあらゆる要素の成長性にフォーカスし、スケールの可能性を議論します。こうした議論の中で、私自身新たな着眼点や気付きが得られていて、日々刺激を受けています。

その傍ら、ファンド監査対応や組合員集会の開催など、ステークホルダーの皆さまに対する説明責任を果たすべく、各種法律や契約事項などのルールに則った地道な仕事にも取り組んでいます。そのような中、ベータのメンバーは常に明るく好奇心が旺盛で、未知なることへチャレンジする気概に溢れていると感じます。

ポートフォリオマネージャーとしての船出

── 名刺には「ポートフォリオマネージャー」と書かれていますが、これはどういったお仕事なのでしょうか

あまり聞き慣れない肩書きですよね!日々のファンドの管理業務をはじめ、ファンド全体のパフォーマンス分析・管理や、LP投資家の皆さまへの説明窓口として機能していくことが主なミッションです。

足元では、ポートフォリオ分析を容易にすることを目的として、各種情報を一元化する仕組みをメンバーと共に作り、実行に移しています。ベータのファンドサイズは徐々に拡大しており、今後投資先数の増加に伴い取扱う情報も増加することが想定されていることから、私が入社したこのタイミングで社内の様々な体制を強化していくことが必要であると捉えています。

また、VC業界が今後持続的に発展するために、キャピタリストの支えとなるミドル・バック体制をより充実させることが重要だと思います。弊社ではファンド管理をはじめ様々な業務をバックアップ担当者がほぼ1人でカバーしていました。ここに私も加わることで、各種事務の円滑化や標準化ができればなと。

── 業界全体でもこのあたりは議論されている部分ですよね

最近では首都圏VCのポートフォリオマネージャーやファンドコントローラーの方々が発起し、全国各地のVCのミドル・バック担当者を対象とした勉強会コミュニティを運営してくれていて、VCファンド管理のナレッジの共有知化も図られつつあります。VCの未来を見据えたやりがいのある職務だと思っています。

これはあくまでも想像ではありますが、前職において中間管理職として働いた経験を生かし、理想を追う起業家とそれを形にするチームメンバーの間に立って最適解を考えるNo.2の方の話の聞き役(調整役)や、LP投資家の担当者の方からざっくばらんに本音をお聞きするみたいなことができると、ベータや投資先に貢献できるのでは…?と考えてもいます。

このあたりが、ポートフォリオマネージャーとしての最も分かりやすい足元での使命だと思います。

── 良くわかりました。ちなみに、田村さんが長期的に取り組みたいことはなんでしょう?

デット視点とエクイティ視点のギャップを埋める存在になりたいです。スタートアップに対する代表的な資金供給手段であるデット(融資)とエクイティ(投資)両者の実務を知る者として、両者の目線に配慮しながら、ベータのメンバーと、前職の日本公庫をはじめ地域金融機関の皆さまを繋ぐハブとしても機能したいと考えています。

また、メンバーの要請に応じる形で、投資先の起業家へデット調達に関する助言もできるといいかな…と考えています。前職時代にデット側とエクイティ側の相互理解のためと思ってVC業務について自分なりに勉強してきたつもりですが、実際にVCで働いてみて初めて知ったことも多くあるんです。これらの気付きは適宜ベータのメンバーへ共有したいと考えています。

── デットとエクイティの両方の目を持っている人材は貴重ですよね

デットとエクイティ、同じ資金供給手段と言っても、支援までのプロセスや支援金の出口は全く異なっています。一方で、両者はスタートアップにとって欠かせない資金調達手段であることからも、各資金の出し手が互いに理解を深め連携または融合し、それぞれの役割を認識することが大事であると考えています。

それに、転職を果たすまでVCの業務はとてもやりがいある仕事だろうなというイメージがあった一方で、ファンド組成・管理や投資先支援の実情など、その業務がややベールに包まれているなと感じていました。VCという仕事の社会的認知度を高める上でも、私のような転職者がスタートアップに強く関心を持つ層に対しVCの実情や自らの経験を伝えることができれば、業界の更なる活性化につながるのでは?とも考えています。

長期的にやっていきたいことはもう1つあって、それは『ベータが作り上げた「ファンド・エコシステム」を他地域へ波及すること』です。

── ファンド・エコシステムを他地域に

はい。これは私が初めてベータと出会った時に頭に浮かんだことなのですが、林さんや渡辺さんが時間をかけて作り上げたファンド・エコシステムは、行政の強力な推進と福岡に住む民間の方々の自前気質をはじめ様々な要素が絡み合って成しえたものではありますが、この経験則は他の地域がファンド・エコシステムを形成する上での指針になるのではないかと。

近い将来、ベータの経験則と共に、私自身がベータで得た経験を、私の郷里である三重県をはじめこれまでお世話になった地域へ波及できると何か面白いことが起こるかも?と考えています。実際、転職を決断してからこれらの地域でスタートアップ支援に取組む方々との繋がりも増えていて、今後ライフワークとして自らのリソースの許す範囲で取り組んでいきたいです。

── 日本の様々な地域のスタートアップ環境を見てきた田村さんならではですね。

私にとって「地域」は欠かせないワードです。ベータへ参画して以降、ベンチャーキャピタルとは極めてローカルなビジネスであり、起業家やその会社が生まれた風土にしっかり向き合ってこそ、意義が生まれ、結果がついてくる仕事であることを実感しています。

── 最後に、あらためて意気込みをお願いします!

まずはベータが組織として前進するために与えられた職務をこなし、チームへ貢献することが第一です。その上で、これから出会うステークホルダーの皆さまとは公私を通じて信頼関係を築いていき、ベータのスローガン「まわれまわれいい資本」が常に機能するようなハブになりたいと思っています。

もちろん、これまでお世話になった皆さまとも、今後も変わることなく繋がらせていただきたいと思っていますし、福岡を拠点として様々な地域の方々と繋がり、これらの方々と「ともに未来が生まれる風土を」創り次世代へ繋ぐため、限りある時間を大切に過ごしていきたいです。どうぞよろしくお願いします!

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