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“地元企業との連携”で事業拡大、累計35万人が活用「チャリチャリ」の地域に根ざしたサービスの作り方
WATANABE Reito2018年2月に福岡でサービスを開始したシェアサイクルサービスの「Charichari(チャリチャリ)」。現在では約2,500台の自転車と500ヵ所以上の駐輪ポートを展開し、地域密着型のモビリティサービスとしてさまざまなシーンで使われるようになっています。
対象のエリアも少しずつ拡張していて、2020年には名古屋と東京に進出。4月からは新たに熊本市でもチャリチャリが使えるようになりました。
サービスローンチから約4年、チャリチャリはどのように地域に根ざしたサービスを作りながら事業を成長させてきたのか。今回は運営元のneuetで代表取締役社長を務める家本賢太郎氏に「地方でサービス展開する際の地元企業との関わり方」をテーマに、チャリチャリのこれまでと熊本での展望について聞きました。
中学生の時に脳腫瘍を患い車椅子生活になり、みんなと同じように移動できない不自由さを感じる。そんな時インターネットに出会い、世界中の情報にアクセスすることで見える世界が広がり、15歳で事業を開始。中学を卒業して3カ月後に、 クララオンラインを創業。2006年、日本企業がアジアで活躍する架け橋になりたいと、中国でサービスを展開。
2019年、neuet株式会社を設立し、シェアサイクル「Charichari(以下、チャリチャリ)」を提供している。
累計35万人が活用、地域密着型のシェアサイクルサービス
── 最初に「チャリチャリ」の概要と、近況について教えていただけますでしょうか。
家本 : チャリチャリでやりたいことは 「まちの移動の、つぎの習慣をつくる」ことです。
電車やバスのように多くの人が日常生活で活用している交通機関と比べると、シェアサイクルはまだ習慣にはなりきれておらず、そこに行けば必ずあるという安心感を提供できるまでには至っていません。
我々としては「赤い自転車がそこにあって、パッと移動できる」というくらい、密度の濃いものを作りたいと思っています。2018年2月に福岡でサービスを始めて、2020年からは名古屋と東京にも拡大。そしてこの4月からは新たに熊本市でもローンチしました。
最初に始めた福岡では現在約2,500台の自転車と500ヵ所以上の駐輪ポートを展開していますが、このビジネスはドミナントで密度高くやることが重要です。そうでなければ「移動したいところに行けない」「出発したい場所に自転車との接点がない」など、最初のユーザー体験が悪くなってしまう。
だからneuetが運営するようになった頃から「とにかくポートを作りまくろう」と言って、いろいろな地域のパートナーとも連携しながら事業を広げてきました。
現在は累計35万人のお客さまに850万回以上使っていただいており、日次のライド数も1.6万回まで増えてきています。
── この事業を始める前には海外の先行事例をかなり研究されたのだとか。
家本 : 200個くらいのシェアサイクルや電動キックボードのシェアリングサービスなどを試して研究しました。シェアサイクルの場合は中国の事例が取り上げられることも多いのですが、実はニューヨークやソウルなどさまざまなエリアで成功事例があるんです。
成功してるサービスはブロックごとぐらいの間隔で駐輪ポートが設置されていて、どこへ行くにも使えるような状態が整っている。その様子を見て「目的地にポートがあるのは重要だけれど、それに加えて自宅の下にもポートがあるとさらに便利だよね」と思いました。
実は現在チャリチャリのポートの30%以上は、マンションやアパートの駐輪場の一部を借りています。大切にしているのは、とにかく日々の生活の1番近いところにポートを設置すること。そのために事業者の方と連携を深めながら取り組んでいます。「駐輪ポートが入居者にとってプラスになるのであれば」ということで、きちんと説明をすれば好意的に協力してくださるケースも多いです。
── 福岡に関してはマンションやアパートの他にも、さまざまな場所にポートが設置されていますね。
家本 : 福岡の場合は「うちにも来て」と言われることも増え、「福岡で何かを始めるとなった時にはチャリチャリを置く」という考え方が徐々に浸透してきた感覚はあります。協業の輪も広がってきていて、契約している法人の数は200社以上になりました。
たとえば西鉄(西日本鉄道)さんの例ではバスの営業所やバス停のすぐ横にポートを設置いただいたり、サブスク(西日本鉄道が運営する「ちょいよか」)のメインコンテンツに入れていただいたりといったかたちで連携を進めています。
実はもともとバス会社からは「敵だと思われているのだろう」と勝手に考えていたんです。
ただ交通の結節点ではチャリチャリがものすごく使われ始めていることが実績としても出ていたことに加え、コロナで状況が変わったこともあり、先方から一緒にやろうとお声がけをいただき協業に至りました。
また事業上のパートナーシップだけでなく、株主の構成についても地域連携をかなり重視しており、その点は多くのスタートアップとは異なる部分かもしれません。
いきなり「チャリチャリです」といって地域で何かできるほど簡単な話ではない。投資家の方々からは地域の中でのクレディビリティ(信頼性)をお借りしている面があると考えていて、実際に何か動き出すにあたって現地のつながりをご紹介いただくこともあります。
オール福岡、オール名古屋でニュートラルに運営する
── 株主構成の話も出ましたが、地域にしっかりと根ざしたサービスを作るためにどのような点を意識されていますか?
家本 : 大きなポイントとしては「アプリの使い勝手」「駐輪ポート」「事故の予防」という3つがあります。
私たちはアプリを通じてお客様にサービスを提供している以上、その使い勝手にはこだわりを持ち続けています。同じように、ユーザー体験に直結するポートも重要です。目的地になる場所、出発地になる場所、経由地になる場所のバランスが取れているかどうかを意識しています。
そして自転車は人の命に関わるものでもあるので、「自転車が起因して大きな事故を起こすようなことはしたくない」と当初から考えてきました。チャリチャリでは自転車のフレームの設計から全部自社でやっているのですが、部品コストが高くなったとしても、しっかりとした部品やフレームを使って安全に使えるものを作っています。
── 特に地域の事業者との連携が関係してくるのがポートの部分ですよね。
家本 : そうですね。その次のステップとしては、企業の人たちに業務中の移動などでもチャリチャリをフル活用していただくというところまで進めていければと考えています。
また地域に関してもう1つ挙げるのであれば、福岡ならオール福岡、名古屋ならオール名古屋のように「特定の企業の色をつけるのではなくフラット・ニュートラルな体制であること」を意識してきました。
たとえば福岡では九州朝日放送に資本を入れていただいていますが、他のテレビ局にも置けるところにはポートを設置してもらっていますし、個別のプロジェクトやキャンペーンでご一緒いただくこともある。業界内で1つの企業と組んだらそれでおしまい、ということはしないように決めています。
── それはなぜでしょうか?
家本 : 結局特定の企業とだけやるとなると、ポートの場所にしろ事業の方向性にしろ偏りが出てしまうと思ったんです。誰かから好かれるものではなく町の中のインフラを目指すのであれば、フラット・ニュートラルにやっていくことが重要です。
結果的に福岡に関してはその考え方で成果が出始めていると思っていますし、名古屋でもだいぶそのかたちが生まれつつあります。
── 実際にオール福岡、オール名古屋を実現するためにさまざまな企業を巻き込むのは簡単ではないと思います。家本さん自身は企業と交渉をする際にどのような話をされていますか?
家本 : 機能面の特徴や(チャリチャリと)連携することによって生まれる効果などはもちろんですが、街の中における自転車の存在や役割についてのお話をすることも多いんです。
自転車にはフィジカル面だけでなく、心の面においても健康になれる要素があると思っています。その土地の風を受けられるし、街の中を移動しながら気になる場所にサッと立ち寄ることもできる。車だと見過ごしてしまうような発見があるかもしれません。
これは自転車の誇れる部分として声を大にして言いたいところです。
チャリチャリのポートを設置いただいているお店の方からは「店頭にポートを置くこと自体が、来店を歓迎していることを示すサインになった」と言っていただきました。そういった声をきっかけに、横の展開につながっていくことも少なくありません。
自分自身、30代の半ばまでは「山手線の数十秒のダイヤ」に沿って動く人生でした。それに比べると自転車は信号に一度かかるだけで目的地への到着が1分遅れてしまうこともあり、先が読みづらい交通手段でもあります。
ただ、いろいろな人生の豊かさがあるのではないか。その中には自転車だからこそ得られるものもあるのではないか。そのようなことを語ったりもしています。
地元企業との連携を円滑に進めるためのポイントとは
── 福岡の事例では事業者との連携がポートの拡充など事業の成長に大きく関わっているというお話でした。最初から事業者との連携に重点的に取り組まれていたのですか?
家本 : ローカルで事業開発のチームを作り、地元の事業者と深く付き合っていくという取り組みは(メルカリから運営を引き継いで)チャリチャリになったタイミングから力を入れ始めました。
僕はもともと名古屋出身なのですが、名古屋にも地元の昔からのつながりのようなものが存在しています。実際に僕はそれにすごく助けられ、15歳で事業を立ち上げることもできた。だから僕の中では絶対に地元のつながりを大切にするべきだという確信があったんです。
── チャリチャリがさまざまな事業者と連携できている要因はどこにあるのでしょう?
家本 : 自分たちの場合、うまくいく例はたいてい再現性があります。それは話をしにいくと「その会社の誰かがすでにチャリチャリを使っている」ということ。その場合はミーティングが終わった後、絶対大丈夫と安心して帰ってこれることが多いです。
実際に「めちゃくちゃ使ってます。こうしたいと思っていたけど、誰と話したらいいのかわからなかったんです」と言われることが数十件以上あったと思います。
チャリチャリでは累計で51回以上使ってくださった方の数を1つの重要な指標として追っているのですが、それが全体の18〜19%ほど。つまり街の中でチャリチャリに乗ってくれている人のうち、5人に1人は51回以上使ってくれているヘビーユーザーということになります。
ある程度そのような環境が整い始めたタイミングで、運営を引き継いで事業開発に力を入れ始めたというのも重なった結果、連携がうまくいったというのもあるかもしれないです。
もちろんシェア・オブ・ボイスは意識しているので、PR活動にも継続的に取り組んでいます。
特に地域の中では「誰が協力してくれたのか」「誰が拘られたのか」を大事にされる方もいて、そこから新しいつながりが生まれることもありますから。今は毎月3本何かしらのリリースを発信することをKPIにしています。
またローカルにおいてはテレビや新聞の影響力がいまだに大きく、特にチャリチャリのようにBtoBに訴求をしていきたい場合にはなおさらです。だから1分でも良いのでニュースで取り上げていただくためにはどうすれば良いか、そこに集中して取り組んでいました。
── 地域企業との連携を円滑に進めるという観点で、押さえておくべきポイントは他にもありますでしょうか?
家本 : あまりはっきりとは言われないのですが、「組むことのメリット・デメリットを正直な言葉で全て伝えるか」は重要だなと思っています。
意外と「これをやらせてください」という話だけをして、協業することによるメリット・デメリットを明確に伝えていないというケースが少なくないんです。
たとえばチャリチャリの場合、ポートを設置する際に「そこで何かが起きるかもしれない」というリスクもあります。協業は「必ずしも良いことだけではない」と思っているのですが、他の事業者の方に話を聞いていても、一方通行のコミュニケーションになってしまっていることが多いように感じます。
先ほどの西鉄さんの例では、サブスクサービスを立ち上げるにあたってチャリチャリに関心を持っていただきました。
その際にサブスクを通じて認知の拡大を期待できる反面、必ずしも短期的に収益が見込めるわけではないことも先方から伺っていまして。こちらからは「認知を広げたい」ということをお伝えしたところ、西鉄さんからはバス車内などの広告枠のご提供をいただきました。
先方としては福岡の若い人たちに使ってもらえるようなサブスクサービスをどのように作っていくかを悩まれていたので、チャリチャリとしてもテレビで取り上げていただく際に一緒に宣伝をするなど、面を広げるためにできることを自発的にやりました。
一方的に「これをください、あれをください」ではなく、お互いのメリット・デメリットをきちんと伝えながら取り組みを進めれば、結果的にお互いが欲しいものを得られる“効果的な協業”の実現に近づくと考えています。
4月からは熊本でもローンチ、2年間で「なくてはならない存在」へ
── 4月からは新たに熊本でサービスがスタートしましたね。熊本でのサービス展開には以前から関心があったのですか?
家本 : 熊本市内で開催されているスポーツイベントの運営に以前から関わっていて、自分自身も何度か参加したことがあり馴染みがありました。
市内には市電とバスがあるのですが、平日の夕方や土日などは交通渋滞が発生することも多いんですね。だから70万人都市の交通課題をどうしていくのかというのは何十年も言われ続けてきました。
熊本市は熊本駅と中心市街地がおよそ2kmくらい離れています。このエリアは基本的にフラットな地形なので、自転車との相性がめちゃくちゃ良いんです。最初に熊本に行った時に「市電を2駅だけ乗るほどでもないけど、歩くのも少し面倒だな」と感じたこともあって、これは絶対に自転車が必要だと考えていました。
実は3年ほど前に市役所に訪問して、もしシェアサイクルをやる機会があれば是非やりたいですとお伝えしたこともあったんです。おそらく他の事業者からもそのような提案があったと思うのですが、時は流れて去年の秋に正式に公募が出て、12月に採択していただきました。
── そのような経緯があったのですね。現地の方の反応などはいかがでしょうか。
家本 : 当初は中心市街地の限られたエリアからのスタートにはなるのですが、実際に歩いて話を聞きにまわると、シェアサイクルがあったら便利だという声が本当に多いです。
またすごく嬉しいエピソードとして、熊本駅近くのとある八百屋さんから「もし熊本でチャリチャリをやるなら、八百屋の横を貸すからポートにして欲しい」と電話をいただきました。まだ熊本でサービス開始が決定する前の時期だったのですが、福岡で実際にチャリチャリを使ってみて便利だったからだと。実際にローンチが決まってから相談した結果、正式にポートとして場所を提供いただくことになりました。
── 今回熊本ではゼロからのスタートになります。その辺りは、福岡での知見などもあるためある程度は事業展開のイメージもしやすいのでしょうか?
家本 : たとえば名古屋はシェアサイクル自体のプレゼンスがあったり、現地企業との関係値があったのでスムーズに進むかもしれないと思っていたのですが、実際はシェアサイクルについてさまざまな角度から説明した上で「来年度検討しますね」という時間軸になりやすい。要は火がつくのに少し時間はかかるのですが、火がついたらどうなるかは過去の経験から分かるので、今は環境を整えることをひたすら頑張っているところです。
シェアサイクルを見たことがないという方も多い中で、現場の方と一緒に事業を進めていかなければならない。(他地域での事例があるからといって)そんなに簡単な話ではないのですが、しっかりやりきりたいです。
── 最後に熊本展開における意気込みをお願いします!
ここから2年間で、熊本市内でのチャリチャリが、皆さんにとって「あったら便利だろう」から「なくてはならない存在」に少しでも近づけるように頑張ります。熊本市内には歴史や文化、緑を感じられる要素もたくさんあり、自転車で巡るということが熊本に訪れる皆さんの新しい観光スタイルにもなれればと考えています!
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