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九州から“日本を代表するVCの1社”へ ──ベテラン投資家と考える地方VCの可能性と戦い方
HAYASHI Ryohei2021年春より、元ベンチャーユナイテッド取締役で15年以上VC業務に携わってきた丸山聡さんに「社外取締役」という形でドーガン・ベータへ加わっていただきました。実は20年の6月からアドバイザーとしてさまざまな知見を提供いただいてきた中で、今後はドーガン・ベータはもちろん、九州のスタートアップ・エコシステムの発展に向けても一緒に活動いただくことになります。
今回は改めて参画いただいた背景から福岡や九州に期待すること、その中でドーガン・ベータが担うべき役割などについて語っていただきました。
大学卒業後、証券会社でVC業務、上場企業の経営企画やIR、銀行系VCでM&Aアドバイザーなどを務めた後、ベンチャー企業でIPO責任者として上場を経験しつつ、起業も経験。2007年に(株)ネットエイジグループ(現ユナイテッド(株))に入社、社長室長を経て2008年夏よりVC投資を担当、2013年1月からベンチャーユナイテッド(株)取締役就任。
2018年2月からはベンチャーユナイテッドのファンド運営に携わりながら、上場企業の社外取締役やVC/CVCのアドバイザーなどに活動の幅を広げる。
JVA2017ベンチャーキャピタリスト奨励賞 受賞
ドーガン・ベータ 代表取締役パートナー
住友銀行・シティバンクを経て2005年よりドーガンで地域特化型ベンチャーキャピタルの立ち上げに携わり、累計5本・総額50億円超のファンドを運営。2017年にドーガンよりVC部門を分社化したドーガン・ベータ設立し代表就任。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会 理事 地方創生部会長を務める。
地元だけでは投資家が見つからない
── 丸山さんと林さんが知り合ったきっかけから教えてください。
丸山 : 最初に会ったのは2014年の7月だから、もう7年ほど前ですね。もともとB Dash Campに参加するために福岡を訪れていて、翌朝にスタートアップカフェで会ったのが最初だったと思います。
その秋にはドーガン・ベータが開催していたスタートアップパビリオンにゲストで呼んで頂いたりもして、少しずつ関係性が深くなっていきました。
── 実際に翌年からは丸山さんが在籍していたベンチャーユナイテッドとドーガン・ベータで九州のスタートアップへ共同投資も実施されています
丸山 : 1社目のウミーベ(2020年10月1日にクックパッドに吸収合併)の代表の渡部一紀さんとは、以前に私が投資していた会社の役員だったころからの付き合いで、その後も定期的に話をしているなかで。本格的に資金調達をするということで彼から相談を受け、2015年6月に出資をしました。その時に福岡のドーガン・ベータも一緒にやろうという話になって、渡辺さん(現取締役パートナーの渡辺麗斗)と一緒に。
それ以降、林さんから「面白い人がいる」と起業家を紹介してもらうようになったんですね。結果的に2015年12月にインプルーブ、2016年5月にPaykeへ共同で出資をしています。
林 : その3社はどこもかなり早い時期に投資をしているのですが、当時は今以上に福岡や九州で一緒にシード投資をできる投資家が限られていたんです。なかなか地元だけでは投資家が見つからない中で、東京の銀行系VCやCVCに紹介してみるものの「ちょっと早い」と言われることも多かった。そんな状況で丸山さんは積極的に動いてくれていました。
── 投資後の支援などに関しても連携して一緒に進めることが多かったのですか?
丸山 : 一緒に連携してやったとなると、その次のファイナンスが1番大きいかな
林 : そうそう。それぞれの出資先がシリーズAとかに進んでいくんですが、さっきも言ったとおり地元に投資家がたくさんいるわけではない。そもそもどんな投資家にアプローチするべきか、相談相手も限られているんですよね。その点は丸山さんが手厚くフォローしてくださっていた印象が強いです。
たとえばインプルーブはまさにその典型例で、次のファイナンスの時期が近づいたタイミングで丸山さんに福岡に来てもらって。半日〜1日かけてファイナンスの方向性や、具体的に誰に声をかけるかなどを集中的に議論しました。
それまでもVCとしてそのようなサポートはしていましたが、お互いが協力しつつ、バランスを取りながら投資先の支援を進めていくのがすごく新鮮でしたし、丸山さんの存在はすごく心強かったですね。
地方企業への投資は「海外投資」と同じような感覚
── 丸山さんはドーガン・ベータに対してどのような印象をお持ちだったのでしょう?
丸山 : 九州に本拠地があり、みんながそこにいて(福岡や九州の)投資先を日常的にサポートしてくれる点はありがたいし、投資を検討する上でも安心材料になっていました。
と言うのも、東京のVCが地方スタートアップへ投資する時の大きな問題が「モニタリングやハンズオンをどうするか」ということなんですよね。そこに関して、九州の企業であれば林さんたちがしっかりやってくれる。ドーガン・ベータと連携し、お互いが役割分担をしながら投資・支援をする体制を作れたことで、九州のスタートアップが投資のスコープに入っていった感覚がありました。
そもそも東京のVCがシードで九州のスタートアップに投資をする例がほとんどなく、地方の会社にとっても東京の資本にアクセスするのが難しい時代だった。その中で新しい座組みを作れたのは良かったですよね。
── たとえば過去にはモニタリングやハンズオンが難しいことで投資を断念したことなども?
丸山 : 自分の感覚としては、地方スタートアップへの投資は「外国企業への投資」と同じような感覚でした。誰が見るのか、どうやって支援するのか、情報交換をどうするのか。
林 : なるほど、外国企業への投資に近いんですね。
丸山 : 法制度や会計制度の違いはないので、そこは(外国企業への投資とは)事情が異なるけれど。特に本拠地を外国に構えてメンバーが現地でバリバリやっているような会社を支援するとなると、こちらから担当者を派遣するなりしない限り簡単ではない。そこは多少の違いはあっても、当時の東京のVCはどこも同じような考えがあったと思います。
今となっては多くの人たちがごく普通にオンラインでMTGをしているし、出張ベースで現地にもいける。僕自身も当時からSkypeでMTGをしていたので「インターネットがあれば場所は問わないよね」という考えはもともと持っていました。
一方で、会って話さなくてはいけないと思った時に「直接会える」ことは重要。オンラインだと込み入った話をしづらい時もあるし、物理的な距離が心理的な距離に通じる部分はあって、近くに頼れる人がいてくれることの安心感はあると思うんです。
── 確かにシード期のスタートアップや起業家だと、なおさらそうかもしれませんね
丸山 : 日常的に見てくれる人がいれば僕たちとしても安心できるし、それも含めて九州でできることと東京でできることを掛け合わせたらもっといい支援ができる可能性もある。他の人と同じことだけをやっていてもダメなので、(ドーガン・ベータとの取り組みは)投資家としての魂が揺さぶられました(笑)
── 数年前からそうした連携があった上で、2020年6月にアドバイザー就任、さらに社外取締役就任へと繋がっていったと
丸山 : 一緒に投資をするということは、同じ船に乗るということ。その乗り込んだ船が複数あった感じですよね。なおかつお互いに自分たちができる支援は最大限やっていこうというタイプだったので、必然的に仲良くなった。信頼できるパートナーとしてドーガン・ベータが九州にいてくれるのは、本当にありがたいと感じていました。
「ドーガン・ベータの目指すべき未来のために」
── 約1年前のアドバイザー就任については林さんからのオファーがきっかけだったそうですね
丸山 : 緊急事態宣言が出て時間ができたので、「オンライン飲み会でもしましょう」という話になったのがきっかけだったんじゃないかな(笑)
林 : 前々から丸山さんに何かお願いしたいねという話は社内でもしていて、タイミングを探っていたところだったんですよ。
福岡のスタートアップ・エコシステムも少しずつ状況は変わってきているけれど、まだまだVCや、VCにお金を出すような人たちがたくさんいるわけではない。シリーズA・Bで投資をする事業会社や、M&A先の候補になる大企業も同様です。
だからこそ意識して(東京など他のエリアの企業と)ネットワークを張り巡らせることをやってきたけれど、まだまだパイプが足りていないという課題意識がありました。
── なるほど。その課題意識があって、丸山さんに相談しようと考えたんですね
林 : もう1つ、ドーガン・ベータとしてどんなVCを目指していくのか、そのヒントを丸山さんなら教えてくれるんじゃないかという期待もありました。
九州のためにやっていきたいという思いは当然持っているし、そこに向けて今までチャレンジしてきた。ただ、それを「ベンチャー投資」を通じて実現していくにあたって、どんなファームになっていくべきなのか。チームもそうですし、ファンドの規模もそう。どのような投資家から資金を集めて、どのようなスタートアップに投資をしていくのか。
日本では地方発のVCもまだ少ないため、明確なロールモデルも描けない中で試行錯誤を続けてきました。丸山さんからは今までも知見をもらっていたのですが、ドーガン・ベータとしてより大きな挑戦をしていく上で、アドバイザーという形でより深くご一緒してもらえないかと考えていたんです。
20年以上この業界にいて、いろいろなVCの経営を見てきている。そもそもファンドレイズからクローズまでのサイクルを現場で経験している人自体がまだまだ日本には少ないですから。
丸山 : ちょうど僕も40歳を1つの節目に、もっといろいろな会社や人と働いてみたい、新しいことにチャレンジしてみたいという気持ちが強くなって。前職を離れつつ、自分で組成したファンドは運営しながらも、複数のVCやCVCのアドバイザー、上場企業の社外役員などをやりながら、ベンチャーファイナンスやベンチャー企業経営などの全体を、なるべく俯瞰的に観るように意識して仕事をするようになっています。
周囲の人からは毎回のように「ファンドを作らないんですか?」と言われるし(笑)、そこについても考えていることはあるのですが、それ以上に、日本に真っ当な企業や投資家が1社でも増えて欲しい。特に、ちゃんと投資のロジックがわかって、その上で起業家に寄り添える「起業家ドリブンな投資家」が増えて欲しいという思いが強くて。
自分の中では、今はそのための布教活動を一生懸命やっているという感覚なんですよね。僕が蓄えてきた知見を少しでも役立ててもらえればと考えながら活動している中で、林さんからオファーをいただいた。
“九州のVC”である必要はない
── 丸山さんはこの1年間はアドバイザーとして、そしてこれからは社外取締役としてドーガン・ベータに関わっていくこととなりますが、改めてドーガン・ベータや地方発VCに期待されていることを教えてください
丸山 : 最近、ドーガン・ベータは「九州のVC」である必要はないのかなと感じているんです。つまり、九州や福岡の地盤を活かしながらも、「いかに日本を代表するVCになっていくか」という目線を持ち続けることが重要なのではないかなと。
そしてそれを実現できるチームだと思ったからこそ、応援したいし、一緒にやりたいと思いました。
── 九州のVCである必要はない、という話はすごく気になります
丸山 : 実際コロナ禍ではどこにいるのかがあまり関係なくなっていますよね。オンラインで投資相談がきて、一連のプロセスがオンラインで完結できるようになる。そうなれば東京であろうと九州であろうと大きな違いはないですし、もはや日本である必要性すら無くなっていくかもしれない。
その状況下において、どこに自分たちの強みを出していけるのか。それを本気で考えることがドーガン・ベータにおいても非常に重要です。
たとえば九州、特に福岡には規模の大きい地場企業が複数存在していて、それらの企業との繋がりはドーガン・ベータのアドバンテージ。その繋がりを活かして「日本中のスタートアップから出資の相談がくるようなVCになるにはどうするべきか」を考えることは、今後ドーガン・ベータが向き合っていくべきテーマの1つですよね。
── 確かに福岡ではスタートアップと大企業、行政などが連携した実証実験も盛んです。
丸山 : 実際に「東京の大企業だと規模が大きすぎるため、現場との距離もあってPoCを始めにくい」「CVCやアクセラレータープログラムなどを介さないとPoCの実施や発注が難しい」という話も耳にすることがあります。
その点、福岡は小回りが効いてフットワークが軽い企業も多い。そのような企業がスタートアップとの協業に前のめりになってくれれば、日本の環境も大きく変わってきそうじゃないですか。
大企業とスタートアップの協業は、場合によっては「ゼロサムゲーム」みたいになってしまう恐れもある。お互いが共創していく上では、その間に入る「触媒」のような存在が必要で、その役割はVCこそ担うべきだと考えています。
ここ数年は日本でもVCのファンドサイズの大型化が進んでいて、そこに注目が集まりがちです。ただ、資金面についてはドーガン・ベータのファンドサイズで支え切るのが難しければ、東京のVCと連携すればいい。実際にヤマップやウェルモのような事例(ともに福岡で始まったドーガン・ベータの出資先で、二桁億円規模の資金調達を実施済み)が生まれてきていることも踏まえると、むしろ九州であることの強みを徹底的に磨くことで日本を代表するVCの1社へと近づいていくと思うんですよね。
スタートアップにとって明確に事業の成長に繋がる、そのような支援ができるようになれば本当に強いVCになれる。起業家も地場企業もVCもみんながハッピーになれる座組みを「福岡モデル」のような形で作れると、ものすごく面白いんじゃないかな。
みんながハッピーになれる「福岡モデル」の実現へ
林 : 確かにそうですね。福岡にいて感じるのは、スタートアップの起業家たちを始めとした新しい経済圏と、ずっとこの地を支えてきた地場産業の方達を中心としたオールドエコノミーとの距離感がめちゃくちゃ近い。オールドエコノミーの人たちは自分の事業ももちろん大事なんだけど、次の世代のこともすごく真剣に考えてくれている印象があります。
これは(福岡の伝統的な祭りである)山笠なども同じなんですよね。山笠では、山台の上に座って山笠を担ぐ人たちに指示をする「台上がり」という役割があるのですが、この台上がりの人は自分の後継者を指名しないといけないんです。
要は現職の人が責任を持って、次のリーダーを探す。その使命感みたいなものが福岡には根付いている感覚があって、だからこそ起業家の人を応援する文化もできやすいんじゃないかなって。
僕たちのやるべきことは、それがビジネスになって、きちんと経済発展につなげていくこと。その流れを作ることができれば、福岡モデルを実現できるかもしれない。
丸山 : そのモデルに日本中の会社と起業家が乗ってくれるようになるとすごくいいよね。真似したいという地方が出てきた時に、ドーガン・ベータが手助けしていくという話も全然ありえると思います。
福岡は行政との距離も近いのでそこももっと巻き込んでいけるようになれば、スタートアップにとっては非常にいい街になるし、そのハブとしてドーガン・ベータに相談することも増えてくるはず。
── 何が変われば、福岡モデルの実現に近づいていくでしょうか。
丸山 : ドーガン・ベータの体制の拡充ですかね。起業家の数は成功事例が増えればもっと増えそうですし、そこまで足りていないとは感じていない。それよりも東京のスタートアップから相談が来た時に応えられる体制があるのか、起業家と大企業や地場企業との関係性をしっかりグリップできるかどうか。要は常に温まっている状態のコミュニティを維持できているかが重要だと思います。
「福岡から日本を代表するVCを創る」という、ある意味スタートアップ的なアプローチに参加したいと思う人がもっと増えてくれれば、 ドーガン・ベータの活性化にも繋がりますよね。
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