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“あえて”福岡で起業、Live Searchが「地方でPMFを達成する戦略」を選んだ理由

地元でもなければ、特別な縁があるわけでもない。それにも関わらず“あえて”福岡で起業する道を選んだと話すのが、不動産法人向けのSaaSを手掛けるLive Search代表取締役の福井隆太郎さんです。

Live Searchは不動産業界出身の福井さん自身が感じてきた業界の課題を解決するべく立ち上げたスタートアップで、現在は管理業社向けの物件撮影・間取り図作成代行サービス「Live Search Req」など複数のプロダクトを展開。上場企業など大手の顧客を始め累計導入企業は170社を突破し、今後さらなる事業拡大も見据えています。

実は福井さんは宮崎県の出身で、創業前には父親が経営する地元の不動産会社や東京の不動産会社で経験を積んできました。その福井さんが“地の利”がある宮崎や東京ではなく、なぜ福岡から事業を始めたのか。そしてLive Searchがどのように事業を広げてきたのか。

今回はドーガン・ベータの担当者としてLive Searchへの投資を実行した渡辺麗斗も交えて、同社のこれまでを探っていきたいと思います。

福井隆太郎 (ふくい りゅうたろう)
Live Search 代表取締役
宮崎県宮崎市出身、大学進学を機に上京するも半年で大学を中退。東京、宮崎で約5年間不動産会社で賃貸仲介・管理・売買を経験し、2016年9月に福岡市で株式会社Live Searchを設立。現在は福岡に本社を構え、東京拠点設立など全国展開を開始。
渡辺麗斗 (わたなべ れいと)
ドーガン・ベータ 取締役パートナー
静岡県静岡市出身、大学在学中に「金融の地産地消」を実践するドーガンにインターンとして参画し後に入社。2017年にドーガン・ベータとして独立し現職。地域に根ざした投資を行いながら、スタートアップ・エコシステムの構築を目指す。

縁もゆかりもない福岡で起業した理由

── まずは起業の背景から教えてください

福井 : もともと父が宮崎で20年くらい不動産会社の経営をしていることもあり、不動産は昔から馴染みがある環境でした。その後大学入学を機に上京したのですが、個人的には大学の必要性をあまり感じられなくて…。長男だったので、ぼんやりと「いつかは自分が会社を継ぐのかな」という気持ちもあったんですね。

それであるならば、大学の勉強をするよりも不動産に関連する資格を取ったり、経験を積んだ方がよっぽど役に立つのではないかと。結果的に半年で大学を辞めて東京の不動産会社で働いた後、宮崎に帰って父の会社でも数年間仕事をしました。

── それでも、最終的には自分で会社を立ち上げることを選ばれたんですよね

福井 : 父も1代目として会社を立ち上げ、経営をしてきていました。その血を受け継いだからなのか、いつしか自分で起業してみたいという思いの方が強くなっていったんです。ちょうどその当時はサイバーエージェントや楽天といった企業の創業期の本を読んで、ベンチャーの魅力を感じ始めていた時期でもありました。

── そのような経緯があったんですね。領域は最初から不動産で考えていたのですか?

福井 : はい。自分がずっと不動産会社で働いてきたので、そこで難しかった作業や億劫だった作業を支援するようなものが良いんじゃないかと考えました。

その時に浮かんだのが、まさに今やっている「物件写真」です。

不動産会社の視点では写真を上手く撮れないことや、撮影するのに手間がかかることが課題でしたし、物件を探しているエンドユーザーにとっても、必ずしも満足のいく物件情報が提供されていないことも多い。自分自身も5回ほど引っ越しをしていて、その度に情報が不十分で課題感を感じていました。

── 物件写真をWeb上で見れるようにするという仕組み自体はかなり前から存在しますよね?

福井 : その通りで20〜30年前から仕組みはあったのですが、今でも改善されていないんです。いろいろな会社が物件写真をきれいにするために工夫や挑戦をしてきたはずですが、結果として業界に根付いていない。だから「これを変えられるとしたら自分たちだけかもしれない」と勝手に使命感のようなものを感じていました。

── 勝手な使命感、良いですね!もう1つ、創業の場所に福岡を選んだ理由もぜひ教えてください。もともと深い縁があったわけではないとか…?

福井 : そうなんですよ(笑)。 実は最初は以前住んでいた東京か出身地の宮崎で考えていました。ただ業界リサーチを進める中で、「不動産ポータルサイトの加盟社数」と「ITサービスの普及率」が都道府県別にまとめられている資料を偶然見つけたんですね。そこで知ったのが、都市部の中で福岡が圧倒的に(普及率が)低いということでした。

── 福岡が低いのは少し意外ですね。

福井 : 全国の中だと九州が全体的に低くて。福岡は九州の中の都市部ということで不動産会社が多いので、普及率にすると低くなるのかもしれません。

東京は以前住んでいたので福岡に比べると馴染みもありましたし、顧客になりえる企業の数が多いことなどを含めて利点が大きいと思っていました。また宮崎は地元で、不動産会社の知り合いも多い。サービスを始めたら複数社で最初から使ってもらえる可能性があり、こちらもメリットが大きそうでした。

ただ、当時からゆくゆくは自社のサービスを全国で使ってもらえるようなものに育て、会社としても上場を狙えるような規模にまで拡大していきたいと考えていて。不動産業界においてITサービスが浸透していない地域でもしっかりシェアを取ることができれば、その目標に近づけるのではないかと思ったんです。

逆にそこで受け入れられるようなレベルのサービスを作れないようであれば、そもそも上場なんて難しいだろうと。そう考えて、中学時代の同級生2人と一緒に2016年に福岡で起業をしました。

SaaSという言葉も知らなかった中での資金調達

── ドーガン・ベータからは2019年7月に出資を受けていますね。VCからの資金調達はこの時が始めてでしょうか?

福井 : はい。それまでの約3年間は個人の方からの出資と金融機関からの借入だけでした。

── VCからの調達はもともと計画されていたんですか?

福井 : 今振り返ると少し恥ずかしいのですが、当時は業界のこともほとんど知らなくて。主にインターネット上の情報を頼りに他のスタートアップの資金調達動向などを調べていたんですね。

どうやらエンジェルラウンドの次は、一般的にシードラウンドというものがあるらしい。自分が見たサイトには「3000万円以上はVCじゃないと難しい」みたいなことが書かれていたので、どうやら次はVCから調達をしなければならないらしいと(笑)。

── それがきっかけなんですね(笑)。渡辺さんやドーガン・ベータと出会ったのもその後ですか?

福井 : 事業が少しずつ広がる中で、徐々に外部の企業の方からメールなどをもらうようになりました。そのうちの1社がジャフコさんで、担当者の方からベンチャー投資について教えて頂いたり、人を紹介頂いたりして。実は渡辺さんとの出会いもそれがきっかけなんです。

渡辺 : 最初にお会いしたのが2018年の末頃でしたよね。

── 渡辺さんの中で投資の決め手になったポイントは何だったのでしょう?

渡辺 : 僕は基本的に「市場、チーム、戦略」の順番で検討しています。Live Searchの場合、まず不動産は規模が大きくチャンスもある。そして福井さん自身が家業も含めてこの業界に精通していて、顧客の課題感がどこにあるのかをしっかりと見つけられているところも良いと思いました。

一方で当時福井さんたちがやっていたことは「不動産屋の代わりに現地に行ってきれいな写真を撮ります、それが安価にできるんですよ」というもの。(VCが投資をするタイプの事業かどうかという観点で)それ自体にはあまり魅力を感じない、というのが最初の印象でした。

Live Searchの撮影する物件写真イメージ

── その印象が何度か話をする中で変わっていったと。

渡辺 : そもそもなぜこのサービスをやっているのか。福井さんたちが掲げている「不動産情報をカタログ化していく」という世界観がどのようなもので、それを実現するためには何が必要なのか。僕たち自身でも市場の構造などを調べつつ、福井さんにも教えてもらいながらお互いの目線を合わせる作業を入念にやりました。

それを通じて「現時点ではまだまだ理想までは遠いかもしれないけれど、福井さんたちとなら同じ方向を向いてやってけいけそうだな」と感じられたのが最終的な決め手になったと思います。正直、当時はKPIがこのまま計画通りに伸びていくのかも不明瞭という状態でしたけど。

福井 : そうですよね。KPIに関しても、最近になってようやく「これだな」というのが掴めてきたくらいなので。

渡辺 : やろうとしていることやビジネスモデル的にはSaaSの会社なのに、福井さんがSaaSのメトリクスを全く知らないという話になって

福井 : いや、そもそもSaaSという言葉自体を知りませんでした(笑)。

渡辺 : それで一緒にKPIシートを作りながら、この指標がポイントになるんじゃないかとあれこれ議論して。そんなことをやりつつ、並行して投資検討も進めるという感じでしたよね。

── 福井さんにとってはVCからの資金調達は初めてということで、苦労した部分も大きかったのでは?

福井 : わからないことだらけなので大変でした。他の投資家からは断られましたし、渡辺さんに関してもこの感じで投資してもらえるのか最後まで不安でしたね。

渡辺 : 確かに事業内容は地味というか、数字が出てきた今でも周りに紹介すると「地味ですね」と反応されることも多いです。一方で、僕自身は福井さんの話に対する納得感が高かった。だから他の投資家も気づいていないのであれば、むしろ大きなチャンスがあるかもしれないと感じていました。

福井 : 渡辺さんから言ってもらったことで印象に残っているのが「撮影業務自体は地味だけれど、室内に唯一入れるサービスはすごく価値があると思っています」ということ。その言葉を聞いて、自分たちの価値を再認識できました

渡辺 : 撮影業務は「面倒くさい」「上手く撮れない」など明確なペインがあり、これを現場の社員さんが仕方なくやっているのが現状です。この置き換えが可能だと思ったのと同時に、その事業を通じてLive Searchが築けるアセットに可能性を感じました。

福井 : こういった知見やアドバイスをもらえるのは渡辺さんに出資してもらって良かった部分ですね。たとえば「チャーンレートに気を配った方がいいですよ」と言われても、僕たちからすると「そもそもチャーンレートって何?」から始まって、1から教えてもらう。あとはそれを業界や自社に合いそうな形に落とし込んで実行すれば、上手くいくという感覚があります。

その実行力がLive Searchの強みだと最近改めて思っていて、今は「渡辺さんからアドバイスをもらい、自分たちが実行して成長につなげる」という良いサイクルが作れている。だから今でも2週間に1回はMTGをしてもらうようにお願いしています。

福岡の市場で揉まれたことで、東京進出がスムーズに

── 事業も徐々に軌道に乗り始め、今年に入って新たに1.1億円の資金調達も実施されましたね。

福井 : 現在は福岡だけでも150社以上の管理業者に導入いただいています。シェアでいくとだいたい15%ほど。加盟店が増えたことに加えて大手企業への導入が進んでおり(上場企業の顧客が10社以上)、その一方で解約率が減ってきたこともこの半年〜1年の変化です。ようやくPMFしたと言えるような段階になってきたかなと。

── あえて福岡からスタートするという選択を取られたわけですが、振り返ってみて良かった点、苦労した点などはありますか?

福井 : 簡単ではない市場から始めることで、プロダクトが揉まれたことですかね。最初は往復の交通費すら賄えない、1物件250円という価格で撮影の提案をしていました。(自社の社員が撮影するコストを考えると)どう考えても圧倒的に安いのに、それでも200社以上に話をして導入してもらえたのはたったの2社だけ。これには自分たちも驚きました。

現在は機能面も大きくアップデートされ、その何倍もの適性価格でお客さんに提供しているのですが、東京の会社の場合は「それよりも高い価格でも使いたい」と言ってくださる方もいる。福岡とはかなり感覚が違うなと感じます。

渡辺 : 結果論かもしれないけれど、最初から東京でやっていたら勘違いした状態で、プロダクトも磨かれないままお客さんだけ取れてた可能性もありますよね。

福井 : 本当にその通りで、自分たちがドーガン・ベータから出資を受けて最初に取り組んだのが「金額を適性な価格帯に上げつつ、それでも納得して使い続けてもらえるプロダクトにすること」でした。

── その期間が結果的には今東京でも顧客を獲得できていることにも繋がっていると。

福井 : 福岡よりも東京の方が楽に感じるくらいです。上場企業や大手の管理会社であれば、もともと福岡支社と取引があり、その繋がりや福岡での実績が1つの信用になって導入に至ったケースもあります。スタートアップが何の接点もなしにアプローチをかけるには難易度が高い企業とも商談ができているのは、(福岡からスタートしたことが)功を奏したのかなと思います。

渡辺 : 事業やプロダクトの面では良い部分も多かった反面、採用などはやっぱり苦労していますよね。

福井 : たとえば自分たちは今後100人規模を見据えて組織を拡大しようとしているのですが、身近にモデルケースが少ないですし、そもそもそういうナレッジ自体もまだまだ少ない。そこが活発にシェアされていくと良いなと思います。

渡辺 : 東京の場合だとスタートアップ間での人材の循環も活発になってきている反面、福岡ではまだまだそれも少ない。(候補者の母数だけでなく)スタートアップ経験者をなかなか採用しづらい部分もありますね。

── ありがとうございます。Live Searchとしては今後さらなる事業拡大を見据えていらっしゃると思いますが、最後に展望を教えてください

福井 : 渡辺さんとも議論してきた「Live Searchのアセットを活用した新たな事業展開」に関する構想を、ようやく実行に移せる段階に来たという感覚があります。

たとえば部屋の寸法情報を用いて家具をもっと気軽に買える体験を作ったりだとか。起業する前からふわっとイメージしていたことを実現できる1年になると思うので、プロダクトの幅を広げつつ、並行してシェアの拡大を目指しながら大きく成長していきたいです。

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