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「地方の課題感を自分ゴトとしてわかることが魅力だった」東京発のJOINSが九州のVCを選んだ理由
HAYASHI Ryohei地方企業が抱える課題を、都市部に住む副業人材が“リモート”で解決する──。既存の副業マッチングサービスとは異なるアプローチから、人材不足に悩む地方企業の課題解決と個人のキャリア支援に取り組んでいるのが2017年創業のJOINSです。
これまでJOINSが手がけるサービスには700社以上の地方企業と8,000人以上の副業人材が登録。仕事のジャンルはマーケティングや営業、ECの運営、経営企画、人事など多岐に渡ります。特に地方企業ではデジタル活用が十分に進んでいないことも多く、都心のデジタル人材がリモートで「地方企業のDX」をサポートするような事例も増えてきているそうです。
JOINSでは2019年12月にシードラウンドでの資金調達をしており、その際にドーガン・ベータから出資をさせて頂きました。その当時東京に本社を構えていたJOINS(2021年9月に白馬に本店を移転)が、なぜ福岡のVCであるドーガン・ベータから資金を調達したのか。
今回はドーガン・ベータ代表取締役パートナーの林龍平も交えて、JOINS代表取締役の猪尾愛隆さんからその舞台裏を伺いました。
JOINS代表取締役
1977年東京生まれ。慶應義塾大学大学院修士(SFC)修了後、(株)博報堂・クラウドファンディングのスタートアップの役員・事業責任者を経て2017年に地方中小企業が副業人材を直接採用できるJOINS(株)創業。「働き方をしなやかにし、好きな土地で豊かに暮らす人を増やす」がミッション。自社でも約50人のメンバー全員がフルリモート・兼業で業務を行い、代表自らも長野県の中小企業の宿泊施設の集客業務担当を3年以上継続中。
ドーガン・ベータ 代表取締役パートナー
住友銀行・シティバンクを経て2005年よりドーガンで地域特化型ベンチャーキャピタルの立ち上げに携わり、累計5本・総額50億円超のファンドを運営。2017年にドーガンよりVC部門を分社化したドーガン・ベータ設立し代表就任。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会 理事 地方創生部会長を務める。
地方企業の課題を大都市の副業リモート人材が解決
── 最初にJOINSを創業した背景から伺えますでしょうか?
猪尾 : 前職でクラウドファンディングの会社にいた時の経験が大きなきっかけになっています。当時僕は 「純米酒ファンド」という日本酒のファンドを立ち上げて、全国のさまざまな酒蔵さんと一緒に仕事をしていました。
会社の規模としては数千万円から数億円ほどの大きさのところが多かったのですが、地域に根付いていて何百年も続いているところも珍しくなく、何より「自分が死んだ後も残るようなものを作る」という気持ちで仕事をされている人たちを見て、かっこいいなと思った。今後こういう人たちの仕事を手伝うことに、自分の時間を使っていきたいと思ったんです。
その時から地域の中小企業と一緒に働くことが好きで、JOINSも入れると16年ぐらいそこに携わっている。根底にある思いは今も変わっていません。
── 前職では“カネ”の面から地方の企業をサポートされていましたが、JOINSでは“ヒト”に着目されていますね
猪尾 : まさに地方企業さんに届けるものを、お金よりも人に変えたいと思うようになったことがJOINS創業の動機でもあるんです。僕が前職で事業を立ち上げた時には、まだ「クラウドファンディング」という名前が日本ではほぼ知られていないような時期でした。
今はドーガン・ベータさんのような存在が少しずつ出てきていますが、当時は地方の中小規模の企業にリスクマネーが流れる仕組みが少なかったんです。その資金を供給できないかという考えた結果、クラウドファンディングに行き着きました。
ただ、2010年代の中頃からいわゆるゼロ金利になり、政府系のファンドもたくさんできてくると、地方を支援する動きも徐々に生まれ始めるようになった。クラウドファンディングの市場自体も震災以降に少しずつ広がっていき、お金が流れる仕組みも出きはじめました。
一方で、課題になっていたのが「人がいない」ことだったんですよね。僕たちはいろいろな地銀さんと組んでいたので週の半分くらいは全国を飛び回っていたのですが、社長さんが魅力的で、思い描いているビジョンもある。それでも詳細な計画と実行するための十分な組織がないから、投資ができないという事態に遭遇することが何度もありました。
その時に「人がいないから、お金も入らないんだな」と気づいたんです。最初に押すボタンは人だなと。人が流動化しないことには、これ以上地域にお金も流れないという感覚が強くなっていったんです。
── 「副業」というアプローチを選ばれたのはなぜですか?
猪尾 : それも僕の前職での体験が大きく影響しています。おそらく2,000社ほどの地方の中小企業の経営者にお会いして、直接的に資金調達をお手伝いした事例だけでも300件ほどあるんですね。
たとえば岩手県二戸市のとある酒蔵さんは「じいちゃんが二戸の酒を岩手の酒にして、親父が岩手の酒を日本中で飲まれる酒にした。だから俺は世界中で飲まれる酒にするんだ」というような話をされていて、やっぱりすごいかっこいいんですよ。
何度かそっち側の世界に行ってみたいと思うことがあったのですが、その際にハードルになったのが「移住」と「年収のギャップ」でした。僕自身も結局そのハードルを超えられなかったですし、周りの人の声を聞いてもその2つが原因になっていた。
じゃあどうすれば解決できるだろうと考えた際に出た答えが、リモートで副業をするということでした。JOINSを2017年に創業して、日本で副業解禁があったのが翌年の2018年。その頃にはZoomなども徐々に使われ始めていたので、「これで問題ないじゃん」って思ったんですよね。リモートと副業の掛け合わせなら、2つのハードルを超えられるはず。これにかけてみようと思いました。
シード調達の舞台裏、九州のVCから調達をした理由
── 創業翌年の2019年12月、事業拡大に向けてドーガン・ベータから初めてのVC調達をされていますよね。猪尾さんと林さんが会われたのもその頃ですか?
林 : きっかけはうちの社外役員でもある丸山さんの紹介でしたよね。
猪尾 : 丸山さんとは前職時代から接点があったので、もう10年以上の付き合いなんです。それで丸山さんに「良いVCの方紹介してもらえませんか?」と相談したところ、ドーガン・ベータが良いんじゃないかと林さんを紹介してもらった。
(編集部補足 : 丸山さんがベンチャーユナイテッド在職時に猪尾さん前職の企業への投資を担当)
林 : 最初に会ったのは2019年の夏で、当時猪尾さんが働いていた渋谷のオフィスの下にあるオープンカフェでお茶をしました。
── 当時のJOINSはどのような状況だったんですか?
猪尾 : まずは個で稼げるようになろうと思って、僕自身も副業というかフリーランスのような形で複数の仕事をしていましたし、フルタイムの人は当時も今も雇っていないので(外部調達をしなくても)事業を続けていくこと自体はできていました。
ただ開発も強化して、事業のアクセルを踏みたいという思いもあったので資金調達を検討し始めて。実はだいたい20社くらいのVCの方にお話をしたところ、唯一OKしてくれたのが林さんだったんです。
林 : 僕は 最初にお話を聞いて、これはすごいなと。逆にどうやったら上手くいかないんだろうかと考えながら聞いていたのですが、全然思い浮かばなかった(笑)。だから他のVCさんに断られたというのが本当に不思議で。
── 林さんはどこに魅力や可能性を感じたのでしょう?
林 : 副業がようやく本格化し始めたくらいのタイミングだったこともあり、当時はそれと地方の課題解決が上手くリンクするというイメージを持っていませんでした。地方の会社は中小企業に関わらず、中堅や大企業も含めてどこも「人がいない」と悩んでいることがよくわかっていた中で、そこをリモート副業で解決するというのが目から鱗だったんです。
猪尾: その違いが面白いですよね。でも後日丸山さんにもその話をしたら「やっぱり地方で起きていることの匂いを嗅ぎ分けれないと、この事業が伸びるイメージがわかないかもしれないね」と言われて。僕も納得感がありました。
── それは猪尾さん自身も資金調達をされている中で同じような感覚があったと
猪尾: 今回新たに資金調達をしたのですが、トラクションがついてきたこともあり調達にかかった時間が10分の1くらいだったんです。資料も以前ほど作り込まず、KPI実績シートをお送りして、こちらを見てくださいと。
逆にトラクションが出る前だと、やっぱり地方の課題感や具体的なペルソナのイメージを持てるのかどうかが大きかったんだなと思いました。実際前回のラウンドでは「これは社会に必要で需要もあると思うのですが、VCの目線では(VCが投資するようなビジネスとしては)ちょっと合わないと感じました」と断られるのがよくあるパターンでしたから。
林: そうなんですよね。「HR Tech」と言ってもそれこそSaaSだったり、人材紹介やマッチングだったとしてももう少し大きいマーケットを見ている方が多いんですかね。
猪尾: ただね、林さんとも話していたのがデータなどを見ると日本のGPDの7割は地方圏から生み出されているということ。ローカル経済は重要な役割を担っていて、マーケットも実は大きい。でも意外とその事実を知らなかったり、興味を示されない方が多いのだなと皆さんのリアクションを見ていて感じました。
── ドーガン・ベータ以外で地方の投資家にはアプローチされなかったんですか?
猪尾: ローカル型の投資家自体はいるので、何社かアプローチはしました。ただ例えば地銀系のVCさんとかは特にそうなのですが、大きなミッションの1つが地元への貢献なので、地元以外の会社には入れずらい側面があるのかなと。完全にトラクションが出ているレイターステージの会社であれば別ですが、僕たちはシードだったので。
林:当時は本社が東京でしたし、彼らとしては今のステージでは難しいです、みたいな感じですかね。
猪尾:そうなんです。だからスタートアップにもどんどんお金が流れている今でも、ローカル×シードの領域に関してはお金の供給源がほとんどいないんですよね。だからすごくニーズはある。
── 最終的にはドーガン・ベータから調達をされたわけですが、シード期の調達を振り返ってみていかがでしょう?
猪尾: 当時はフラフラでした。メジャーなVCさんのところに行って、全く相手にされなかったりとか(笑)。でも結果的にはローカルの世界観が分かって、そこに共感してくださる方から応援していただけることが1番だなと腹落ちしました。
一緒に初期のトラクションを作れた
── ドーガン・ベータから出資を受けて以降のことで、印象に残っていることがあれば伺いたいです。
猪尾: 福岡の企業さんをいっぱい紹介してくれたことと、何よりドーガン・ベータさんのグループ会社がうちのサービスをユーザーとして使ってくれたことですね。JOINSでは「僕ら自身が最初の顧客になるんだ」という考えを大事にしています。要はまず自分たちが(自社サービスを)試してみた上で、本当に良いと思えたら世の中に広めて行こうと。
そういう意味でも、自ら九州におけるファーストユーザーになってくださったことは嬉しかった。僕らとしては「一度使ってみてもらえさえすれば満足いただけるのではないか」という思いがあったので。他社さんの紹介も含めて、そこに関与してくれたことがありがたかったです。
林: ご紹介いただいた方、もう1年を超えたのでJOINS経由ではなくなっていますけれど、今でもドーガンで活躍してくれています。
(編集部追記 : JOINSの利用料金は1人あたり税込月額4.4万円の固定料金モデル。期間は最大12カ月で、それを超える場合は企業と個人が直接契約する仕組み)
猪尾: しかも課題感も良い具合に地方の企業さんと近くて。ものすごくハイテクではないし、若干地味ではあるけれど、みんなが手が回っていないような領域のデジタルの課題があったので、成功事例の1つになっています。
これは個人的な考えではあるのですが、シード期って細かい予実管理のサポートとかはそこまで必要なかったりもするんですよね。それもよりもどうやってトラクションを作っていくのか。ドーガン・ベータさんはそこを意識的に手厚くサポート頂けた印象です。九州との取り組みはドーガン・ベータさんを起点に少しずつ実績が積み重なり、広がっていったので。実際にLPの方々を集めた勉強会なども開いてくれて、その中から顧客として使ってくださる企業さんや、代理店になってくださったところもあります。
── 1番助けになった部分を挙げるとすれば、まさにその点でしょうか?
猪尾: もちろんお客さんの紹介とかも嬉しかったですし優劣はつけられないのですが、その後の調達の時とかにも1番相談したのは林さんなんですよ。ローカルに根ざしたVCで地域の目線を持っている一方で、首都圏のVCの行動原理もきちんとわかる。そのバランス感覚が良いなと思っています。
まず地方ありきで、その考えが強くなりすると、目指せる世界観自体は小さくなってしまう可能性がありますよね。地域のコミュニティビジネスで終わってしまうというか。もちろんそれは必ずしも悪いことではないのですが、(外部調達をして事業の拡大を目指す)スタートアップとしてやっていく上では難しい。林さんはある種「スタートアップのダイナミズムを使える、ギリギリのところ」を維持している感じがします。
林: なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれないですね。
ドーガン・ベータとしてはスタートアップの醍醐味でもある多様性とか新しいアイデアを地域にフィードバックできれば、世の中全体が良くなるよねという考え方が根底にあります。だからもちろん地域の課題解決は大事にするんだけれど、スタートアップ・ファーストでありたい。そこはスタートアップを支援する立場としては当たり前かもしれませんが、すごく意識しています。
猪尾: だから語弊を恐れずに言うと、ちゃんとスタートアップコミュニティにはいるんだけれど、その端っこの方というイメージ。
林: ちょっと特異な立ち位置というか、真ん中ではないですよね(笑)。
猪尾: でも真ん中だったら、JOINSがやっているようなローカルのビジネスはあまり投資対象にならないかもしれない。市場が大きくて、それこそユニコーンのような規模になるような会社に積極的に投資をされるでしょうから。
ただ、それだけでは世の中の課題は解決されないと思うんです。だからドーガン・ベータさんみたいなプレーヤーがいろいろな領域で増えると良いですよね。そのためには林さんたちに成功してもらわないといけないから、まずは僕らがちゃんと成功しないと駄目だなと思っています。
林:よろしくお願いします!
「副業でもエンゲージメントが高い」新しい働き方の普及目指す
── お話にもあったように、JOINSでは6月末にプレシリーズAラウンドの調達も発表されました。最後に今後のJOINSのチャレンジについて教えてください
猪尾: これまでVCさんからも「(JOINSは)どの市場なんですか?」と市場の捉え方を聞かれることが多かったのですが、最近ようやく納得感の高い形で整理できるようになってきました。
4象限の図で整理すると横軸が雇用契約か業務委託契約か、そして縦軸がエンゲージメントの高さで分けているのですが、僕たちは業務委託(副業、複業)なんだけれど、エンゲージメントが高いという市場を作っていきたいと思っているんです。
地方の企業の人たちも、(雇用形態がどうこうというよりも)エンゲージメントが高い人たちを求めていますし、そうじゃなければ上手くやっていけません。
ここにおける「エンゲージメント」は企業が目指す姿や方向性に個人が共感し、自発的に貢献しようという意識を持っている状態を指しています。かつては、なんとなく「雇用契約という踏み絵を踏まないとエンゲージメントが高いグループに入れない」という考え方もあったと思うのですが、そうじゃない世界観を作りたい。
僕は今でも3社で働いているのですが、その関わり方は様々です。その1つが長野県の白馬にある会社で、働いている時間自体は月に十数時間なのですが、ものすごくエンゲージメントが高い。一方で“傭兵”のような関わり方で手伝っているとある企業は、相対的に考えるとエンゲージメントがそこまで高いわけではありません。
当然JOINSに対するエンゲージメントは高いですが、このように個人がポートフォリオを組むような形で仕事ができるようになれば良いなと思っていて、その選択肢を広げていければと思っています。そんな社会を作ることができれば、結果的にはJOINSの企業価値にも繋がっていくと思いますから。
── そのためにビジネスモデルや料金プランの設計なども工夫されていますね
猪尾: 長期の関係性を生み出したいので、12カ月で終わるようにしていて。それ以降は間に入らずに、直接契約してもらうようにしました。やっぱりエンゲージメントって成果を出すのに伴って高くなっていくので、いきなりは難しいんです。なのでそれも踏まえて、事業を作っていますし、今後もそうしていきたいです。
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